プロポリス

はちみつ売り場。

 

わぁ、国産の、有機はちみつ。

 

他のお客さんと話しているのに、

私がはちみつの方を見た途端に

「こんにちはっ!」

と、ふっくらとした

おっかさん的な販売員さんが

愛想よく声をかけてこられた。

 

テキトーに

こんにちはぁ、と

反射的に会釈しつつ、

今無いし、欲しいな、はちみつ・・・

と寄って行くと、

もう一人の、こんどは

小柄な方の販売員さんが、

いかがですかー

と、私の対応を始めた。

二人とも養蜂場キャラらしく、

まぁるい、同じくらいのお年の。

 

有機はちみつは、

トチの花と、きはだ。

 

どんどん試食させてくれる、ちっちゃい方。

こちらもおいしいですよ、

ぼだいじゅ。

独特のクセのある、そば。

 

使い捨ての、透明の樹脂の

小さいスプーンに

とろっと丸く垂らして。

 

舐めたら、そのスプーンに

すぐ次のを継ぎ足してくれる。

 

どうですかー?

と言われても、

口の中が甘すぎて、もうよくわからない。

 

チェイサーをくれたのが、

甘いはずのはちみつレモンで、

それを口に含んでは

酸っぱいなー、と感じて

なおさら、

口の中がもう、よくわからない。

 

でも、香りが良くて好きな

ぼだいじゅと、

有機はちみつという肩書きに惹かれて

きはだの瓶の

二つを買うことにした。

 

「今、新規でご購入いただいた

 お客様には、

 プレゼントがあるんです。」

 

新規客となるために、

お客様情報をください、と。

あー、はいはい。

名前と住所を書いた。

 

その間に、商品を

袋に入れてくれている。

 

書いて渡すと、

「あのー、こちらから

電話をおかけするようなことは

ありませんけれども、

できれば

お電話番号までお書きいただくようにと

言われているもので・・・

よろしいでしょうかー」

 

あーはいはい。

電話番号も書いてから渡した。

 

もう一人のおっきい方が、

私の右からやってきた。

 

「お客様、今日は、

プレゼントが2つなんです!」

ほー、追加?

 

手には、お試しセット的な

少量の何かが数種類、

細々と入ったビニル袋。

 

その中の、おもちゃのような

樹脂の小さなボトルを、

ビニルの上から触りながら、

 

「これは、プロポリスの原液です。」

 

たしかに

はちみつの瓶の一群の横には

プロポリスが並んでいる。

 

飲み物にほんの数滴、

垂らしてお飲みください。

朝起きた時なんかに。

喉にいいんですよ、喉が痛い時なんか。

ちょっとぴりっとしますけどね、

それが効いてるんです。

 

液体の上面に浮く成分が

コップの内側について

取れにくいから、

紙コップなんかがいいですよ、と。

 

それから、と旅行用のような

小さな蓋つきの丸い容器を指して

これは、軟膏。

怪我をしたところに、塗ってください。

 

そして、このローヤルゼリーのカプセルは、

1回2個ずつお飲みください。

 

そして、これは・・・

と、次の何かの説明をしようとするけれど

もうビニル袋の中で

いくつも重なっていて、

全貌が見えない。

 

説明を続けるため、

おっきい方の販売員さんは、

口の止められたビニルの袋を

ガサガサ開けてしまって

その最後のやつを取り出した。

 

ん、開けるのか、と少し思った。

 

私の左でいつからか

商品の袋を持って待ってた

ちっちゃい方は、

 

「説明の紙は、中に入ってますよね。」

と軽く確認する。

あんたがそこまで説明しなくても、と。

 

「うん、入ってる。」と言いながら、

右からの説明は続く。

それが、何か?と。

 

最後のやつは、なんだか

痛み止め入りだという

プロポリスカプセルだった。

 

とにかく、 

それを大もとのビニル袋に

また戻そうとするのだけど、

カプセル10錠ほどと

乾燥剤が入った小さい袋と、

それが上の方をホチキスで止められて

プロポリスカプセルと印字された

台紙との間に、

外袋の口の縁が

挟まれてしまう状態になって

がっさがさ引っかかり続けて、

いつまでたっても

物が元どおりに収まらない。

 

お客様にぜひこのお試し用を

お渡ししようと思って、と。

 

客を喜ばせたいお気持ち

いっぱいなんだなー。

それが感じられるから、

客側としては、なにも嫌ではない。

ありがとう。

 

そこに、食い気味で

待ちきれないように

左から

ちっちゃい店員さんの方が、

もう一つのプレゼントのことを

話し始めた。

 

ワタシがはじめにお伝えした、

この、正真正銘の、プレゼント。

 

お試し用なんかの

付け足しみたいなやつじゃなく。

 

これぞ

プレゼント中のプレゼント。

 

そんな誇りに満ちた態度で、

プロポリス商品のさらに隣に

売り物として並んでいる

4、5種類の

はちみつキャンデーの袋を

指し示す。

 

この中から、どうぞ一つ

お選びくださ~い!

これなんか、人気ですよ~、と

教えてくれたのは

やはりプロポリスキャンデー。

 

じゃあ、それをいただきます、

と言ったら、本当に

にこにこと嬉しそうに、

商品の袋に入れてくれた。

 

この人も、

客を喜ばせたい気持ち

いっぱいの人であることは、

間違いない。

 

すると右から、

「これはまだ

 試飲していただいてないでしょ?」

 

次は私、右向く。

 

左手に小さい紙コップを持っている。

あ、さっきのはちみつレモン?

もういただきました、

と言おうとしたら、

右手には、

ほうじ茶色のプロポリス原液を

たっぷり吸い込んだスポイド。

 

左が言う。

「あ、・・・・ああ、

 プロポリス入れたのは

 ・・・まだ・・・です」

 

私も、

いただきました

と言うのをやめた。

 

「こうやって、ほんの数滴、垂らすんです!」

 

飲んでみてください・・・・!

 

右と左から見守られ、

小型の紙コップに

けっこうたっぷり入った液体を

受け取った。

 

確かに、はちみつレモンの

表面に浮いた成分が

コップの内側に付着している。

 

私「あ、ちょっと臭いがありますね」

右「そうなんですよ~!」

私「ほんとだ、すこし喉がピリッとする」

右「そう!それが効いてるということですー!」

 

左から会話に入ってくる。

「紙コップも

 お渡しすることになってますよね?

 紙コップなんて

 おうちに無い方が多いから。」

 

はっきり理由も言うたー。

研修で、そのように

指導、説明されたのだろうなー。 

 

プロポリス原液お試しセットだけ

渡してどうする。

紙コップも一緒に渡さぬか。右よ。

 

「うん、そうよ。」

右、余裕崩さず。

 

「プロポリスは、免疫も上げるんですよー。」

「そうですか、じゃあ、今の時代にぴったりですね」

「そうなんです~!だから皆様に本当にオススメしているんですよー!」

 

左から商品お渡し。

ありがとうございます。

 

「あの、一冊、説明のついた、あれは、入れてる?」

「はい、入れてます、中に」

 

大事な、プロポリス。

試飲させたお客様に、プロポリス。

 

ちゃんと手抜かりなく、入れたのか、説明書を、左よ。

入れたに決まってるじゃないのさ、いちいち何よ、右よ。

 

「どうぞー、またお越しください~~!」

右大臣と左大臣

二つ並んで、

にこにこと私に商品の袋を渡し、

見送ってくれた。

 

 

そのしばらく後に、

謎のケータイからの着信。

家に帰ってから二度目の着信。

 

「もしもし、堀内さまでしょうかー」

 

よくあることとして、

ハイと返事しといて

間違いはないと思うけれど、

私の苗字の漢字は、

土偏だけれど堀ではない。

 

「あの、堀内さま、

さきほど、はちみつを

お買い上げいただきました、

○○養蜂場の者です」

 

者、って・・・名のらず。

名前聞いてもわからないけれど。

どっちだろう、右か、左か。

 

あのー、商品を一つ、

入れ忘れておりましてー、

たいへん申し訳ございません!

 

あらら。

2つ買った

はちみつのうちの1つ。

 

右から左からの

プレゼント合戦の中、

入れ忘れられていた主役。

 

「あの、もう一人のカノジョが

手渡した時、

お買い上げは1つだと

思ってて、確認しなくて、ごめんなさい」

 

は、はーん・・・

どうも、右だな。

 

送ってくれるという。

期間限定の売り場なので、

あと数日の期間中にまた

そこまで行くかどうかは微妙だ。

大袈裟だけれど、

お申し出どおり、送ってもらうことにした。

 

念のため確認いたします、と

名前と住所を読み上げられる。

 

電話することはありませんが、

と言って速攻、電話され、 

最もこちらの労力少なく

事態収拾のために動いてくれようとして

確認される私の住所氏名。

 

ここまで

お客様情報フル活用されると、

書いた甲斐もある。

 

今度は、私が記入した

ふりがなの方で、

右は

正しい苗字を

淡々と読み上げた。

 

私のことをさっきまで堀内さんと

呼んでいた記憶は、

もう消えているらしかった。

 

マンションの部屋番号を

まったく異なる数字と桁数で

読み上げられたのは

完全に、想定内。

 

しかし、終わりの挨拶は、

私の想定など軽く吹き飛ばした。

 

「それでは、明日の発送で

送らせていただきますー。

申し訳ございませーん。

 

ふじかわが、

ちょっと入れ忘れたんですー」

 

 

じゃ、送らせていただきますー、

もーしわけございませン、

ありがとうございまーす。

 

明日も仲良くなー、

右プロと、左ポリス。

 

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「紙コップもお渡しすることになってますよね?」