証拠は、ラーメン。

もう緊急事態じゃないですよ、という状況となった。

そのほんの翌日かな、金曜日、

まるで空気中にまだ漂うウイルスを洗い流すかのように、

ひさしぶりに、一日中けっこうな雨が続いた。

一向に止む気配もないままに夜になったが、

そんな時に限って、なんとなく

ラーメンが食べたくなった。

いや、あっという間にもうどうしても食べたくなってきた。

まだ店が開いてる可能性は低いけど、急に大きな食べたい衝動。

降りしきる雨が、なんだというんだ。

出かけた。

 

車道も歩道も、すごい水たまり。

水の中を歩いている様に湿り切った夜の空気。

なんでこうまでして、こんな夜にラーメン?

  

あっという間に裾から湿って重くなって来たGパンで

水たまりをびちゃびちゃ跨ぎながら

望み薄な暗いラーメン屋方面に歩きだしてわりとすぐ、

・・・あ・・・!

その明確な理由が急に浮かんだ。

 

そう。

私は東京とかに、特に自分のライブで何日か出かけていたりして、

博多に戻ってからなんとなくゆるっと外を歩いているような時に

ほぼ100パー間違いなくラーメン食べたい欲に襲われて、

そのままラーメン屋に向かう。

とんこつ・ザ・リラックス。

 

春からほとんど無かったほどにしとど降る雨の夜の、

不条理なラーメンそぞろ歩き。

そこには、

東京から博多に帰って来たそぞろ歩きと共通する精神状態があったんだな。

そうね。緊張がほどけた状態にあったのだな、私はその時。

そうね。緊張していたということなのだな、それまで私は。

 

なんと。気づいていなかった。

これまでの不穏な事態宣言下の自分が、緊張していたということに。

 

無批判にただただマスクが品薄だということに怯え続ける人や、

レジに並ぶ後ろの客に近すぎるだろもっと下がれと金切り声を上げてしまうおばさんや、

非国民と後ろ指を指されないように、居酒屋なんかに行くのはやめなきゃね

と言ってしまう良識人に、

静かに嫌悪感を抱いてはいたが、

大げさに揺れるのは良くないと表情も感情も変えず平静を保ち、

縮小せざるを得ない飲食店を応援し、

できるだけマスクをつけることは最小限にして、

しかしつける時には楽しんでいた。

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・・・のだが。

 

ラーメン欲の衝動で気づかされるとは。

己の中に潜んでいた緊張に。

我ながらおそるべし。博多っ子DNA。

 

けっきょくアテにしていた店を

何軒か回ったが、開いてなかった。

まぁおかげで入ったことのない餃子屋に惹かれて、入ってみた。

それはそれで良かった。

 

コワモテ揃いなのにすごく愛想の良い人ばかりの店の人たちが、

カウンターの中と外とで2、3人ずつ立ったまま

ジョブズとかアップルとかグーグルとか

中洲の中で助け合うとか意欲とかチラシ配るとかデキん子育ててくのは教育と一緒だとか

私たち客のすぐ近くで

なんかこれからの餃子屋を熱く語っている。

 

なかなか静かな夜明け感のある夜だった。

帰る頃には、小降りになっていたぜ。

ラーメン欲は、持ち越しですタイ!